2012年10月26日金曜日

頭痛外来 -神経内科ってどんな診療科?-

「…のみならず僕の視野のうちに妙なものを見つけ出した。妙なものを?――と云ふのは絶えずまはつてゐる半透明の歯車だつた。僕はかう云ふ経験を前にも何度か持ち合せてゐた。歯車は次第に数を殖やし、半ば僕の視野を塞いでしまふ、が、それも長いことではない、暫らくの後には消え失せる代りに今度は頭痛を感じはじめる…」

 これは芥川龍之介『歯車』の一節です。ここには「片頭痛」で現れることがある「閃輝暗点」という症状の描写がみられます。このように、小説の中には時々神経内科でみる病気の描写が見られます。芥川は片頭痛持ちで、かなり悩んでいたようです。このあと眼科にかかったことが書かれていますが、この時代に神経内科と片頭痛の頓服薬(イミグラン、レルパックス、アマージなど)や予防薬(ミグシスなど)があれば、頭痛の悩みも軽くなったかもしれません。そのかわりあのような数々の作品も生まれなかったかもしれませんが。

神経内科とはどんな科か?
 神経内科では、このような頭痛やそれに伴う症状の他に、手や足に力が入りにくい、しびれる、ふるえる、足がすくむ、まぶたが下がる、よだれが垂れる、ろれつが回らない、めまいがするなど、身体の動きや感覚に関わる症状をみています。他に、物忘れ、けいれん、意識障害なども神経内科の領域です。このような症状がご心配の場合は一度ご相談ください。
 神経内科では、症状がどこから起こったか、どのように進行してきたか、どんなときに悪くなるか、などの経過が診断に重要です。例えば手のふるえが始まったのは片側か両側か、安静のときか動かしたときか、というだけでも「パーキンソン病」の診断に関わります。ですから経過について詳しく伺います。また神経内科では、脳神経系(眼や舌を動かす、顔の感覚など主に頭部の機能を司る)、運動系、感覚系、協調系(運動をなめらかに行う機能)、高次脳機能系(ことばを話す、おぼえるなどの高度な機能)というように系統的に診察行い、原因部位を探ります。そのため問診や診察には他科より時間がかかる傾向があります。

神経内科はどんな病気をみるのか?
 よく混同されますが、気分が落ち込む、不安などいわゆる「こころ」に関わる疾患は対象外です。心療内科や精神科の担当になります。神経内科では脳、脊髄、末梢神経、筋肉の異常から身体が不自由になる病気をみる科です。手術など外科的な治療が必要な場合は脳神経外科や整形外科にご紹介します。
 具体的な病名としては、頭痛緊張型頭痛片頭痛群発頭痛など)、脳梗塞脳出血パーキンソン病多系統萎縮症脊髄小脳変性症、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー型認知症、多発性硬化症、ギラン・バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、重症筋無力症、多発性筋炎、脳炎、髄膜炎、周期性四肢麻痺、筋ジストロフィー、てんかんなどが挙げられます(下線の疾患は当院外来患者さんにおられます)。

おわりに 
 神経内科は日本ではあまり知られていませんでしたが、近年徐々に知られるようになってきました。とはいえどんな病気をみるのかはっきり判らなかったり、神経内科のない病院も多かったりして、受診する機会が少ないかもしれません。治療可能な病気であれば放っておくのは勿体ないので、一度ご相談ください。例えば片頭痛は予防薬により頻度や程度を減少できる場合がありますし、パーキンソン病には動きを改善する薬があります。アルツハイマー型認知症は症状の進行をおさえる薬があります。
 一方、治療が難しく長年付き合っていかなければならない病気ももちろんあります。健康というのはたまたまの縁で成り立っているのであって、病気というのはいつ誰に降り懸かるのかはわかりません。ですから病気を抱えて生きるということはどんな人にとっても人ごとでありません。病気になった自分はどう生きるのか、何を力に生きてゆくのかということ常に課題として持ちながら診療にあたりたいと思っております。


神経内科
非常勤医師 岸上 仁

さみしい理由

 以前、友人から「人間背骨が冷えるとさみしく感じるらしい」と教えられたことがあります。私はその根拠無さげな説(根拠が有るのか無いのかは調べたことがありません。)が何となく気に入っていて、毎年秋が近づくとそれを思い出し、時には自慢げに人に話したりしています。

 確か私が二十三、四歳の秋頃だったと思います。まだ若くツヤツヤフサフサしていた私は、どの友人と一緒にいたのかは思い出せないのですが友人と話しながら「季節のせいか、何だか薄らさみしい。」といった内容の事を口にしたところ、友人より「中木戸くんは薄着やから、背骨が冷えてさみしく感じるんや。人間背骨が冷えるとさみしく感じるから、ちゃんとあったかい格好して背骨を温めなあかんで。」と返されました。そこからその話でやたら盛り上がって、例えば真冬にTシャツで背骨に沿ってカイロを貼って外出しても、めちゃ寒いけど絶対さみしくはない筈とか、ひと冬丸ごと炬燵の中で誰にも会わずに暮らす等、ばかばかしい話をしていたのを覚えています。

 これを書いている今、十月中旬です。朝夕は空気がわりと冷たく肌寒くなってきました。私は今年三十七歳になって今のところさみしくはありません。その代りに食欲が爆発的に増し、クールビズが終わろうとしている折、冬の背広がピチピチのところまで肥えてしまいました。スポーツの秋、運動せねばと思い立つも、先々月に膝を悪くしたせいで長時間走ったりも出来ないし、せめて散歩を日課にと考えても考えるだけでビールを飲みながら明日からやろうと毎日心に決める、といった具合です。せっかく良い季節なのだから今週末こそは兎に角外に出て、散歩か、スポーツか、何か体を動かそうと思います。

 天高く馬肥ゆる秋です。皆さんも季節を謳歌するを口実に、ぜひ体を動かしに野外へ飛び出しましょう。でも、くれぐれも背骨だけは冷やされませんように。

事務部 N.Y

2012年7月12日木曜日

地域連携室だより

今回の地域連携室便りは、「高額療養費制度」について取り上げてみました。
例えば入院時に窓口支払い(自己負担)が高額になった場合、保険制度上、自己負担額が一定限度額を超えると、その超えた負担分については、最終的には支払わなくてもよいという仕組みになっています。「支払わなくてもよい」というのは、年齢や所得に応じて最終的に支払う医療費の自己負担限度額が決められているということです。(図1・2)越えた自己負担分は、加入する保険や公費負担制度から給付されることになります。これが「高額療養費制度」です。ただし、制度を利用する上では、いくつかの規定や条件があり、やや複雑です。そこで、実際の制度のあらましを見ながら、利用の仕方や留意点について説明します。




Ⅰ「高額療養費制度」の守備範囲
「高額療養費制度」の対象範囲となる自己負担分とは、原則療養費(直接の治療費)の一部負担金部分のみで、入院時食事療養の食事療養標準負担額(いわゆる食費代)や、差額ベット等の特別料金、オムツ代などの保険外負担は対象外となります。
Ⅱ「高額療養費制度」の算定申し合わせ
①一人を単位として計算。
②月の一日から月末までの一ヶ月を単位とし て計算。(月をまたいでの合算はできない)
③それぞれの病院・診療所ごとに計算。
④入院・外来は別で計算(同一医療機関でも)。
⑤保険者ごと(加入している保険証の種類別) に計算。


この二点が原則的な給付条件となりますので留意しておいて下さい。利用方法としては、治療前(入院前)にあらかじめ負担限度額が決まるように手続きをしておく「現物給付」と、治療後(入院後)全額支払った後に超過した負担分を返してもらう「償還払い」のどちらかになります。次に「自己負担限度額」ですが、それをまとめたのが(図2)です。制度上、①一般患者(70歳未満)②高齢受給者 (70歳~74歳)③後期高齢者(75歳以上及び65歳以上で寝たきりの方)に別れ、また所得によりその負担限度額が変ってきます。まず①の一般患者ですが、この世代の負担割合は原則三割となっているので、全医療費が大きくなれば自己負担も増えます。(もう一度図1を参照して下さい)、そこで現在では、どの保険者でも事前に手続きをすれば、「限度額適用認定証」という負担限度額証明が発行されますので、自己負担分の支払いは認定証に明示されている限度額までとなります。事例として(図3)を見ておいて下さい。むろん、精算後でも償還払いの申請手続きをすれば、自己負担限度額と支払い済みの自己負担金との差額を払い戻してもらえます。


一方、②と③(70歳以上の方)では、すでに、保険証の発行時から負担限度額が決まっているので、事前申請をせずとも窓口請求は最初から限度額までとなります。(よって精算後に償還払いの請求をすることもありません)ただし、所得によっては負担限度額が下がる可能性があるので、入院時には事前に保険者に確認するようお勧めします。限度額の区分変更があれば、「限度額適用・標準負担減額認定証」が発行されますので、病院窓口に提示することで、この場合は負担限度額が引き下げられた請求になります。

以上「高額療養費制度」のあらましを見てきましたが、今年四月からは、外来医療費分でも現物給付が始まっています。ご質問や相談がございましたら、お気軽に地域連携室・相談室にお申し出下さい。

次回は「高額療養費制度」のもう一つの仕組みである「世帯合算」・「多数該当」と、外来での現物給付について取り上げたいと思います。

ご存知ですか ~第1回 熱中症について~

徐々に気温が高まってくるこの時期、テレビのニュースでも話題になる熱中症の対処法について、少しお話します。 

【特に熱中症対策が必要な人】
どんな人でも注意は必要ですが、次の方は特に熱中症対策を十分に行ってください。
①高齢の方、子供さん
②熱傷など広範な皮膚損傷があり、通院されている人
③動脈硬化が進んでいると言われている人
④以前に熱射病にかかった人
⑤アスピリンや抗うつ剤を服用されている人
⑥利尿剤を服用されている人

【熱中症対策】
①水分補給は大事ですが、汗をかいたら塩分と糖分を含んだ水分補給が効果的!これには冷えたスポーツ飲料が手ごろですが、自家製で作るには1リットルの水と、ティースプーン半分の食塩(2g)と角砂糖を好みの量を溶かしてつくることもできます。
②しっかり影のあるところで休憩をとりましょう。特にスポーツをされる時はこまめにとりましょう。
③天気予報もしっかり聞きましょう。その日によっての対策も話されています。
④冷暖房に頼り過ぎないようにしましょう。寒暖の差に体はなかなかついていけません。
⑤その他涼しさを与えてくれる人気グッズをご紹介します!薬局やスーパーなどでも販売されています。
◎クールスカーフ…保冷剤をタオルで巻き、それを首に巻いている人もいます。私もその一人ですが、最近は使いやすい商品がでています!冷やしても柔らかくて首にフィットしやすいものや、水に濡らしただけでひんやりとしてくるものもあります。
◎冷却スプレー…スポーツで使用されていることもありますが、長時間靴を履いた足はとても熱量が高いです!脚や体用と別れた冷却スプレーがあります。
◎クールタオル…クールスカーフと同様、冷やしても柔らかいものがあります。クール枕というのもあります。
◎ファンモバイル…手のひらサイズの扇風機です。電池式でどこでも首からかけて使用できます。 
☆番外編☆
◎うめぼし…予防には最適です!
◎温度計…どこでも見れるので、休憩の目安になりますね。
◎家の遮光ネット…窓から入る日光を防ぎ、エコで涼しい!

しかし、どれだけ対策をとっていても気分が悪くなったり、めまい、吐き気、頭痛などの熱中症の症状が出た時は、きちんと病院へ行き診察を受けましょう。これから暑くなる夏がやってきます!快適な日々が送れるよう、心がけていきましょう☆

出会い

出会いとは不思議です。今まで、知りえなかった方たちと、何かのきっかけで交流が始まり、それがいつの間にか生活の一部分を占める様になります。

私には、大きな出会いが有りました。それは、中国語を学習することでした。中国語を学習するきっかけになったのは、シンガポールで痛切に必要語学だと感じた為です。

F1GP観戦の為にシンガポールに旅行した時に、ツアーに入らず、個人旅行で行きました。世界的なイベントの為ホテルが中心街には取れず、そこより地下鉄で、30分程離れた場所にやっとホテルが取れ、そこは中国人エリアで、英語が通じるのはホテルのみでした。お店で買い物をしたり、食事をしたり、道を尋ねるのに英語が通じなくて、とても不便でした。又、シンガポール移民の90%が中国人の為、タクシーの運転手はほとんど中国人で、私が1日に2回タクシーを利用した時も、中国人以外の運転手には当たりませんでした。彼らは簡単な英語を話しますが、文化のちがいか、行くことが出来ない所や、知らない所もすべて、「大丈夫・問題ない・わかります。」と言われ、結局グルグル走り回り続けられ、私が途中で、降りる羽目になりました。その時、中国語が話せたらどうだったのか?意思疎通がとれていたら?と思い帰国後、中国語教室に通いました。講師の先生と出会い、私生活で友情も芽生えたことから、先生の結婚式に招待され、人生初の中国・四川省での結婚式に1人で行きました。日本との文化の違いにドギマギしながら、たどたどしい中国語で親族の方達と会話をし、とても貴重な経験が出来、素晴らしいおもてなしを学びました。その先生は今、台湾に住んでいます。今でも、メールやフェイスブックを通して連絡を取り合ってます。

中国語を学習して、4年目に入りました。語学力はまだまだですが、学ぶことがとても楽しいです。その後シンガポールに行き中国の方とコミュニケーションもとれるようになり、楽しく過ごせました。これからも細く、長く学習を続けていきたいと思います。

看護師 T.N

世界のリハビリ事情 ~視野を広げて~

病気や外傷によって身体的あるいは精神的な障害が起きると、本来ごく自然に行われていた家庭的、社会的生活が制約されるようになります。こうした障害のある人に対して残された能力を最大限に回復させ、また新たな能力を開発し、自立性を向上させ、積極的な生活への復帰を実現するために行われる一連の働きかけをリハビリテーションといいます。

リハビリテーションには、理学療法、作業療法、言語療法など様々な分野、内容があります。私は理学療法士として、脳や運動器などに疾患を持たれる患者さんに対して、それらに応じたリハビリを提供させて頂いています。理学療法には主に運動療法(歩行・起居動作など実際に運動を行う)、徒手療法(関節可動域練習、マッサージなどセラピストの徒手での機能改善)、物理療法(低周波療法、牽引など器具を使った治療)があり、日本では、これらが医療保険の適応となっています。

一方で、世界のリハビリテーションに目を向けてみますと、日本にはない様々なリハビリテーションが医療保険の適応となり患者さんに機能回復に取り入れられています。

その一つを紹介しますと、ドイツでは乗馬療法というものがあり、脳性まひや脊髄損傷の方が実際に乗馬を行い、身体機能の改善を図っています。乗馬を経験したことがある方は想像しやすいかと思いますが、馬上でバランスを取って座ることは予想以上に難しく、日常生活では使う機会が少ない機能を、活性化させることに有益だといわれています。

具体的な例を挙げますと、馬上で座るためには股関節を大きく広げる必要があり、かつ歩くとなると馬の歩様に合わせて、揺れが上下、前後左右に生じます。実はこの揺れが硬直した筋肉をほぐす効果があるようで、骨盤は前後に動くことで体幹筋が活性化されますし、馬の体温(38℃)から伝わる熱が全身をリラックスさせるともいわれています。また、馬上からの眺めは景色が広がるため、沈みがちな気分も爽快なものにしてくれます。そのほかにも、自閉症の子供さんが馬と関わることで、自信が芽生え、積極的に活動するようになった事例もあり、メンタルサポートの役割も担っています。

このように、ある国ではリハビリテーションとして確立しているものでも、日本ではまだまだ世間的に認知されていないことがあります。我が国の現状を省みると、リハビリテーションの日数制限など、新たな可能性を求めるには大きな壁が存在します。医療費削減は重要課題ですが、可能性を追求する姿勢は持ち続けていきたいと思っています。

リハビリテーション科 
理学療法士  中村 輝彦

2012年4月6日金曜日

リハビリ便り

今年は全国的に記録的な寒さでしたね。京都の寒さもいつにも増して厳しいものでした。これから少しずつ温かさが戻ってくると、運動をされる方が多くなるのではないでしょうか。そこで、今回は運動なさる際に気をつけて頂きたいポイントをいくつかご紹介したいと思います。

①急な温度変化に注意!
 外の気温が低いと、手先足先の血管は熱を外に逃さないように細くなります。すると、細くなった血管を血が流れていくので血管にかかる圧が上がってしまいます。また、心臓に血液が沢山帰ってくると心臓の負担が大きくなります。外に出るときは暖かい恰好で手足を冷やしすぎないよう注意してください。

②きちんと水分補給を!
 寒い時は、外の空気が乾燥しているにもかかわらず飲水量が減ってしまいがちです。小まめな水分補給を心がけてください。

③運動前にはしっかりストレッチを!
 寒くなると、筋肉は硬くなり動きが鈍くなります。急に動かすのではなく、十分ウォーミングアップを行って体を温めてから運動してください。
 
 これらのことに気をつけて今年も健康に気をつけて過ごしていただければと思います。

地域連携室便り

先日、あるリハビリに関するフォーラムに参加してきました。
 
 その日のテーマは、難しい「高次脳機能障害」。脳卒中や頭部外傷の後遺症による脳の機能障害のことを言いますが、適切なリハビリを実施することで、一定度の障害の回復が期待できるということが、脳科学の進展によりクローズアップされてきています。フォーラムでは、その障害と向き合い、長いリハビリ期間を経て家庭にそして社会に復帰された方と、それを支えてきた家族や地域の支援者の方々の活動を紹介しながら、そうしたことを可能にしてきている、いわばリハビリの「最前線」を紹介していくものでした。

 当日のプログラムは、高次脳機能障害のリハビリを実際に続けておられる方の記録映像を見ていきながら、まずその障害とはどんな障害なのかを考えていくことから始まります。
高次脳機能障害は、一言で言い当てることはできませんが、おおよそ周囲から見て「別人のように思える」というような感じではないかと考えられます。具体例としては、身体的な機能は回復してきているのに、自分の年齢がわからない(記憶障害)、物事の流れ・手順がわからなくなる(遂行機能障害)、自分から何もしない(発動性低下)、急に怒り出す、病識が欠如しているなど行動や感情のコントロールができない、といった症状が現れます。また、自分の左半側の刺激に気づかない、反応しない(左半側空間無視)、早い話し・長い話しが理解しにくい、漢字より仮名が難しい、思ったことと違うことを言う、計算が困難になるなどの症状を伴う場合も多くあります。記録映像にもそのような場面がいくつも出てきて、日常生活で普通にできるであろう事が出来なくなり、まるで人が変わってしまったかのようになってしまう、この現実が本人の混乱はもちろんの事、家族や周囲の人もどう接していいかわからないなどの深刻な事態を引き起こすことになるのです。

 それではどうしたらよいのか。フォーラムでは、実際にどんなリハビリを実施して、家庭に社会に復帰してきたのか、当事者から話がされます。高次脳機能障害の特徴には、病棟生活ではわかりにくい、本人が障害を認識できない場合が多い、しばしば個人の性格と混同あるいは誤解する、半年~年単位で変化するなどが上げられています。この事から、その「リハビリ」も「障害があるからできない」のではなく、「障害があってもできた」という体験をより大切する「リハビリ」が必要であると話されます。今、自分がどんなふうになっているのか少しでも分かるようになる、いわばその人の主体性の確立を促すような「リハビリ」こそ重要と考えられているのです。更にその実践として、第一に、障害をめぐる状況をただ受け入れるのではなく、状況にあわせて、自身の生活(考え方)を変えていくようにすること、第二に、「あせらないで」「あきらめず」の年単位での取り組みを続けるようにする、第三に、本人の意欲を維持すること―そのために、本人の関心を引き出す記憶への働きかけ、役割のある暮らしをつくる―等が上げられます。こうした事は、例えば病院で行うリハビリというより、家庭や地域での日常生活自体が「リハビリ」と一体化しているような取り組みを、息長く続けていくということであると考えられます。そのために、本人を支援する家族・地域の専門機関の働きの重要性が指摘されました。
 
 当院は回復期のリハビリを担う病院ですが、当院にも程度の差こそあれ、高次脳機能障害を持つ患者さんが入院されていることで、そのリハビリを、退院支援も含めてどのように進めていくかが大きな課題となっています。フォーラムで感じたのは、回復期リハビリ病棟は最大で半年間のリハビリ期間がありますが、その期間内でこうしたリハビリが完了できるわけがなく、どのようにしてより安定した、在宅に戻っての生活リハビリが継続していける状態や環境を創り出していくのかを考えないといけないという事でした。そのためには、地域の在宅ケアシステムや福祉サービスにどのように「繋げていく」のか、効果的な「連携」をどう進めていくのか、今まさに我々が問われていることであると思います。

田舎があるっていいな

患者様と接する中でよく「先生は京都の人ですか?」と聞かれることがあります。私は「京都ですよ」と答えるのですが、二言目には「京都の北の方です」と答えます。「天橋立」ではありません。私の出身地は天橋立から北へ車で約二十分。丹後半島にある「峰山町」です。

 学生時代、大阪にいた頃も「京都の海の方出身」と自己紹介していたのですが、「京都に海なんてあったっけ?」と言われることは珍しくありませんでした。「天橋立」までは知名度はあるのですが、以北についてはなかなか説明できないものでした。ですから、いつも面倒臭くても「京都の天橋立からもっと北に行ったところ」と答えていました。

 峰山町は、2004年に丹後6町(峰山町・大宮町・網野町・丹後町・弥栄町・久美浜町)が合併して出来た、京丹後市にあります。峰山町は私の庭。と言っても観光名所が思いつきません(笑)しいて言えば、磯砂山(いさなごさん:標高661m)は羽衣伝説の発祥の地とされ、麓に「乙女神社」があります。そこにお参りするとかわいい女の子を授かるとか…私もお参りしてもらったのでしょうかね。
 
 実家へ帰省する際、必ずと言っていいほど通過するのが、大宮町から峰山町にかけてのバイパス。マクドナルドやローソン、かっぱ寿司やミスタードーナツなどのチェーン店ができ、最近は発展途上。地元の若者が集まる場所ですね。
 
 食べ物で言えば「バラ寿司」。お祭りなどの祝事でよく作りました。特徴と言えば「サバの缶詰」。砂糖と醤油で味付け、ほぐしながら焙ります。これが酢飯の上に散りばめられています。もちろん他にも具材はのっています。近くにお立ち寄りの際は召し上がってみて下さい。「にしがき」というスーパーでも売っています。お勧めです。

 近隣の町には海もあり、カニもとれ、温泉も湧いて、古墳もあって…残念ながらここには書ききれません。またお声掛け頂ければ可能な範囲で紹介させて頂きます。
 
 思えば、地元を離れて十年目を迎えようとしています。よく帰省しているのですが、こうして文章にするとなぜか懐かしく思いますね。「田舎があるっていいな」

理学療法士 T.Y

新病院 開設 3周年 明日に向かって

脳神経リハビリ北大路病院は、平成23年12月1日に無事開院3周年を迎えることができました。これもひとえに皆様方のご協力、ご指導の賜物と感謝いたしております。厚く御礼を申し上げます。

1、この3年間
 平成20年12月1日に「石野病院」が新築移転し、「脳神経リハビリ北大路病院」となり、当初、「一般病棟56床1病棟(13対1)」・「脳血管リハビリⅡ」・「運動器リハビリⅡ」で開院しました。平成21年7月1日に、京都市左京区で5番目の回復期リハビリテーション病棟を取得し、2病棟体制となり、「回復期リハビリテーション病棟Ⅱ(36床)」と「一般病棟13対1(20床)」になりました。
 
 平成22年1月1日から「回復期リハビリテーション病棟Ⅰ(36床)」を取得しました。「回復期リハビリテーション病棟Ⅰ」は「Ⅱ」に比べると人員基準や在宅復帰率の基準が厳しく、この2年間基準を維持してこられたのは、利用者また関係各位のおかげと感謝いたしております。

 平成23年4月からは、牧浦医師を「回復期リハビリテーション病棟専任医」として迎えることができ、回復期リハビリテーションのさらなるステップアップをすることができたと思っています。 以上のように、毎年のように人員確保とリハビリ実績を積み重ね、また皆様のご協力により、次々に回復期リハビリテーションの上位カテゴリーにステップアップしてきました。
 

2、これからの1年
 ハード面、ソフト面共に激動の3年間でしたが、これからの1年間は今までの様なハード、ソフトの劇的な変化はないと思います。3年間で積み上げた物を使って、いかにリハビリテーションの質と量の充実をはかっていくかということが、今年の最大のテーマといえると思います。
 
 リハビリテーションそのものだけではなく、心療内科医、臨床心理士による精神面のサポート、嚥下内視鏡検査、緊急時のCT・MRI検査など、他のリハビリ病院にはない独自の機能も最大限に使って、少しでも患者様の在宅復帰のお手伝いができればと思っています。

 在宅復帰後の訪問リハビリテーションもさらなる充実を図っていきます。また、一昨年から始まった「健康フェスタ  脳神経リハビリ北大路病院」や、院内コンサート、健康教室等をさらに充実させ、地域の皆様に開かれた病院にしたいと思います。これからも脳神経リハビリ北大路病院に、さらなるご指導・ご鞭撻の程よろしくお願い申し上げます。

 最後に、皆様のますますのご健勝、ご発展を祈念して、私のご挨拶とさせていただきます。

医療法人一仁会 脳神経リハビリ北大路病院長 岡田達也