2015年1月10日土曜日

嚥下リハビリテーションと嚥下内視鏡(VE)について



 脳神経リハビリ北大路病院では、脳卒中や神経難病の患者さんのリハビリを専門的に行っております。脳卒中や神経難病では、様々な身体的障害を伴います。嚥下障害はその中でも比較的頻度が高く、患者さんにとっても非常に辛く、生活の質を著しく低下させてしまいます。
嚥下とは口の中にある食べ物・飲み物を飲み込み胃へ送り込むことです。
通常食べ物は口の中に入ると、軟口蓋や舌や咽頭が食べ物に圧を加え、喉頭の方へ送り込まれます。食べ物が喉頭蓋谷というところに流れ込むと、喉頭が挙上され喉頭蓋というフタによって気管の入り口が閉じられ食べ物が気管に入るのを防ぎます。一方、食道の入り口が広がり、食べ物は食道へ流れ込みます。(図1)
 この一連の動きがうまくいかなくなり、食べ物が口の中や咽頭や喉頭に残ってしまったり、誤嚥(誤って食べ物や飲み物が気管に入ってしまうこと)を起こすのが嚥下障害です。
 嚥下障害があると、そのままでは栄養を十分にとることができないので低栄養・脱水になってしまいます。また、誤嚥によって肺炎を起こすこともあり、命に関わる深刻な問題と言えます。食べることを制限して、点滴や経管栄養(管を胃や腸に入れて流動食を注入する方法)によって低栄養や脱水や誤嚥をある程度防ぐことは可能ですが、「食べる」という人間にとって基本的な楽しみがなくなることは患者さんにとってとても苦痛であり、生活の質を著しく損なうことになります。そこで嚥下障害のある患者さんに対しての嚥下リハビリテーションが非常に重要になってきます。
 脳卒中や神経難病の患者さんのリハビリを行っている当院において、嚥下リハビリテーションは大きな柱の一つです。患者さんに対しては言語聴覚士(ST)という療法士が直接嚥下リハビリテーションを行います。また、嚥下リハビリテーションをいろいろな職種の立場から総合的に検討し、患者さんにとって適切な栄養療法を行う目的で、脳神経外科医、神経内科医、リハビリテーション専門医、心療内科医、看護師、管理栄養士、言語聴覚士等で栄養サポートチーム(NST)をつくり、週1回検討会を行っています。筆者も嚥下内視鏡(VE)を行う消化器内視鏡医としてNSTに参加しております。
 VEとは細い内視鏡を鼻から入れ、喉頭を観察している状態で食べ物や水を飲んでいただくという検査です。(図2)

この検査を行うことによって、咽頭にどれだけ食べ物が残るか、誤嚥はどの程度か等といった嚥下障害の程度や、食べ物の適切な形態や、食べるときの適切な姿勢等を知ることができます。VEはすべて動画に残していますので、患者さんやご家族へのご説明に使用したり、NSTで供覧して嚥下リハビリテーションや栄養療法の方針決定に役立てています。
 栄養補給は患者さんが病気からの回復し社会復帰するための基本です。また、食べることは人にとって基本的な楽しみです。私たち脳神経リハビリ北大路病院は、患者さんの健康・安全を保ちながら生活の質を向上させるため、チームで嚥下リハビリテーションに取り組んでいます。

脳神経リハビリ北大路病院
理事長 岡田 純

2014年7月16日水曜日

神経内科はどんな病気や症状の診療をしているのでしょうか?


神経内科は、脳や脊髄、末梢神経、筋肉の病気を診ています。物をつかんだり、歩いたり、話をしたりする運動や、物を触ったり、痛み・温度などの感覚、物事を覚えたり考えたりすることができなくなった、できなくなってきた病気を診る診療科です。症状としては、言葉がはっきりと話せない、食事がうまく飲み込めない、物をうまくつかめない、手足の力が思うように入らない、手足が震える、物が二重に見える、もの忘れが多くなってきた、めまいがする、頭痛など多くの症状があります。
神経内科は、このように全身の神経系を対象に診療しております。この中から、整形外科、脳神経外科、耳鼻咽喉科、眼科などの診療科が得意とされる症状に対しては、それぞれの科をご紹介させていただきます。

いくつかの神経内科が対象とする病気をご紹介いたします。
認知症:アルツハイマー型認知症を代表に脳血管性認知症、レビー小体を伴う認知症、前頭側頭型認知症(以前はピック病と言われていたタイプが入ります)などの症状の進行を遅らせなければならない認知症から、正常圧水頭症、甲状腺機能低下症、慢性硬膜下血腫などの治療可能な認知症まで、多くの認知症状を出現する病気があります。当院では週1日、もの忘れ外来を行っております。ご家族、ご本人に、気になる症状がありましたらお気軽に受診していただければと思います。

脳血管障害(脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血):当院は回復期リハビリテーションを主な目的にしている病院で、発症当初の入院加療はしておりません。急性発症の患者さんには、市内の脳血管障害の対応ができる救急病院を受診されることをお勧めします。このような急性期ではなく、「今までに症状には出ていない脳梗塞や脳出血が起こったことがあるのだろうか」クモ膜下出血の大きな原因となる脳動脈瘤があるかどうか、将来発症するのではと不安に思っておられる方は、受診していただき、今までの様子をお聞きしたうえで脳の画像検査(MRICT)をいたします。脳梗塞や脳出血、クモ膜下出血になられ、リハビリテーションを希望される患者さんは、かかりつけの先生や入院中の主治医の先生とご相談ください。

パーキンソン病:手足が震える、動作がおそい、手足の関節が固い、起立や歩行が不安定などの症状が起こります。このような症状が出現する病気の名前としては、パーキンソン病が有名ですが、現在服用されているお薬の副作用やその他の病気である可能性もあります。診察や現在服用中のお薬で診断できることが多くあります。以前は、パーキンソン病は進行性の病気でなかなか治療の効果が上がらないことがありましたが、現在は、多くの種類のパーキンソン病に対する薬があり、日常生活を維持していくことが可能となってきています。

めまいや頭痛:めまいは、朝起きた時、部屋の景色がぐるぐる回る症状や、突然歩行がふらふらするようになったなどの症状から起こります。時には、脳血管障害などの脳が原因でおこることがあります。このため、脳に病変があるかないかの診断が必要になることがあります。耳鼻咽喉科の病気、症状であることも多く、耳鼻咽喉科の先生にご紹介させていただくこともあります。頭痛は、しめつけられるような頭痛、心臓の拍動のような拍動性の頭痛、突然頭を殴られたような激しい頭痛など症状はいろいろで、出現前に目の前がちかちか光ったり、見えづらくなったりする症状や、また、吐気や嘔吐を伴ったりといろいろあります。原因としても、筋肉の緊張や片頭痛、脳血管障害などいろいろです。

睡眠障害:睡眠障害は、多くの診療科が関わっており、症状や病気もたくさんあります。この中で、当院の神経内科が主に診療している症状、病気について紹介いたします。睡眠中、夢を見ているときに、夢内容と同じように話したり、手足を動かしたりして、時には横に寝ている人を傷つけるようなことがあるレム睡眠行動異常症や、寝入りばな、脚にむずむずする感覚や虫が這うような違和感があり眠りにくくなることがあるレストレスレッグズ症候群、睡眠中いびきが大きくときどき呼吸がとまっていることがあり、日中眠気を伴う睡眠時無呼吸症候群、また、日中の突然の眠気や驚きや喜びにより脱力がおこることがあるナルコレプシーなどの症状に対して、診断治療をしております。
このような代表的な症状、病気を説明させていただきましたが、ほんの一部分です。何か気になる症状や、ご心配なことが本人のみならずご家族が気づかれましたら、神経内科の外来を受診してください。

神経内科部長  木村 格