2012年4月6日金曜日

地域連携室便り

先日、あるリハビリに関するフォーラムに参加してきました。
 
 その日のテーマは、難しい「高次脳機能障害」。脳卒中や頭部外傷の後遺症による脳の機能障害のことを言いますが、適切なリハビリを実施することで、一定度の障害の回復が期待できるということが、脳科学の進展によりクローズアップされてきています。フォーラムでは、その障害と向き合い、長いリハビリ期間を経て家庭にそして社会に復帰された方と、それを支えてきた家族や地域の支援者の方々の活動を紹介しながら、そうしたことを可能にしてきている、いわばリハビリの「最前線」を紹介していくものでした。

 当日のプログラムは、高次脳機能障害のリハビリを実際に続けておられる方の記録映像を見ていきながら、まずその障害とはどんな障害なのかを考えていくことから始まります。
高次脳機能障害は、一言で言い当てることはできませんが、おおよそ周囲から見て「別人のように思える」というような感じではないかと考えられます。具体例としては、身体的な機能は回復してきているのに、自分の年齢がわからない(記憶障害)、物事の流れ・手順がわからなくなる(遂行機能障害)、自分から何もしない(発動性低下)、急に怒り出す、病識が欠如しているなど行動や感情のコントロールができない、といった症状が現れます。また、自分の左半側の刺激に気づかない、反応しない(左半側空間無視)、早い話し・長い話しが理解しにくい、漢字より仮名が難しい、思ったことと違うことを言う、計算が困難になるなどの症状を伴う場合も多くあります。記録映像にもそのような場面がいくつも出てきて、日常生活で普通にできるであろう事が出来なくなり、まるで人が変わってしまったかのようになってしまう、この現実が本人の混乱はもちろんの事、家族や周囲の人もどう接していいかわからないなどの深刻な事態を引き起こすことになるのです。

 それではどうしたらよいのか。フォーラムでは、実際にどんなリハビリを実施して、家庭に社会に復帰してきたのか、当事者から話がされます。高次脳機能障害の特徴には、病棟生活ではわかりにくい、本人が障害を認識できない場合が多い、しばしば個人の性格と混同あるいは誤解する、半年~年単位で変化するなどが上げられています。この事から、その「リハビリ」も「障害があるからできない」のではなく、「障害があってもできた」という体験をより大切する「リハビリ」が必要であると話されます。今、自分がどんなふうになっているのか少しでも分かるようになる、いわばその人の主体性の確立を促すような「リハビリ」こそ重要と考えられているのです。更にその実践として、第一に、障害をめぐる状況をただ受け入れるのではなく、状況にあわせて、自身の生活(考え方)を変えていくようにすること、第二に、「あせらないで」「あきらめず」の年単位での取り組みを続けるようにする、第三に、本人の意欲を維持すること―そのために、本人の関心を引き出す記憶への働きかけ、役割のある暮らしをつくる―等が上げられます。こうした事は、例えば病院で行うリハビリというより、家庭や地域での日常生活自体が「リハビリ」と一体化しているような取り組みを、息長く続けていくということであると考えられます。そのために、本人を支援する家族・地域の専門機関の働きの重要性が指摘されました。
 
 当院は回復期のリハビリを担う病院ですが、当院にも程度の差こそあれ、高次脳機能障害を持つ患者さんが入院されていることで、そのリハビリを、退院支援も含めてどのように進めていくかが大きな課題となっています。フォーラムで感じたのは、回復期リハビリ病棟は最大で半年間のリハビリ期間がありますが、その期間内でこうしたリハビリが完了できるわけがなく、どのようにしてより安定した、在宅に戻っての生活リハビリが継続していける状態や環境を創り出していくのかを考えないといけないという事でした。そのためには、地域の在宅ケアシステムや福祉サービスにどのように「繋げていく」のか、効果的な「連携」をどう進めていくのか、今まさに我々が問われていることであると思います。