2012年7月12日木曜日

世界のリハビリ事情 ~視野を広げて~

病気や外傷によって身体的あるいは精神的な障害が起きると、本来ごく自然に行われていた家庭的、社会的生活が制約されるようになります。こうした障害のある人に対して残された能力を最大限に回復させ、また新たな能力を開発し、自立性を向上させ、積極的な生活への復帰を実現するために行われる一連の働きかけをリハビリテーションといいます。

リハビリテーションには、理学療法、作業療法、言語療法など様々な分野、内容があります。私は理学療法士として、脳や運動器などに疾患を持たれる患者さんに対して、それらに応じたリハビリを提供させて頂いています。理学療法には主に運動療法(歩行・起居動作など実際に運動を行う)、徒手療法(関節可動域練習、マッサージなどセラピストの徒手での機能改善)、物理療法(低周波療法、牽引など器具を使った治療)があり、日本では、これらが医療保険の適応となっています。

一方で、世界のリハビリテーションに目を向けてみますと、日本にはない様々なリハビリテーションが医療保険の適応となり患者さんに機能回復に取り入れられています。

その一つを紹介しますと、ドイツでは乗馬療法というものがあり、脳性まひや脊髄損傷の方が実際に乗馬を行い、身体機能の改善を図っています。乗馬を経験したことがある方は想像しやすいかと思いますが、馬上でバランスを取って座ることは予想以上に難しく、日常生活では使う機会が少ない機能を、活性化させることに有益だといわれています。

具体的な例を挙げますと、馬上で座るためには股関節を大きく広げる必要があり、かつ歩くとなると馬の歩様に合わせて、揺れが上下、前後左右に生じます。実はこの揺れが硬直した筋肉をほぐす効果があるようで、骨盤は前後に動くことで体幹筋が活性化されますし、馬の体温(38℃)から伝わる熱が全身をリラックスさせるともいわれています。また、馬上からの眺めは景色が広がるため、沈みがちな気分も爽快なものにしてくれます。そのほかにも、自閉症の子供さんが馬と関わることで、自信が芽生え、積極的に活動するようになった事例もあり、メンタルサポートの役割も担っています。

このように、ある国ではリハビリテーションとして確立しているものでも、日本ではまだまだ世間的に認知されていないことがあります。我が国の現状を省みると、リハビリテーションの日数制限など、新たな可能性を求めるには大きな壁が存在します。医療費削減は重要課題ですが、可能性を追求する姿勢は持ち続けていきたいと思っています。

リハビリテーション科 
理学療法士  中村 輝彦