2006年12月25日月曜日

卒煙万歳!


 厚生労働省が「健康日本21」と称する健康づくり運動の中で、生活習慣病の予防対策が最も重要な課題になっています。中でも禁煙に関してはいろいろな機会に宣伝されていますからタバコを吸っている方々はもう聞き飽きたというのが本音でしょう。「判っちゃいるけどやめられない」のがタバコですが、これには二つの原因があります。その一つは生活の習慣としてつい手が出ること、そしてもう一つはニコチン中毒すなわち麻薬に似た依存性があることです。それでもやめようと思うのは、自分の健康の為だけでなく家族や周囲の人たちに及ぼす害を考えるからでしょう。

 タバコを吸うのは「美味しいから」「やめるといらいらする」「間が持てる」「やめると太る」など様々な理由を挙げる人があります。しかしながら、タバコを実際に止めた方を見ると、その時の健康感や爽やかな達成感、周囲の人たちの喜び、環境の清浄化など何ものにも代え難い楽しさがあります。それを思い浮かべて、ここらでタバコから卒業しては如何でしょう。

 最近「卒煙」されて、新しい生活を楽しんでおられる方が何人かおられます。その一人のAさんという75歳の男性は、ある病院で肺炎の治療を受け、肺炎は回復したが呼吸困難が残り、私の外来に酸素吸入装置を着けた車椅子で来られました。そのときは命を保つのがやっとという極度に酸素欠乏の状態でしたが、タバコは奥さんがとめても絶対に手放さないとのこと。これでは生活に困るだけではなく、命さえ危ないからと説得して「卒煙」してもらいました。それから1週間後同じ車椅子で外来に来られたAさんは見え違えるばかりに元気で、酸素の濃度もほぼ正常に回復し、間もなく酸素から離脱されました。
 このような方を何人も見ていると、「卒煙」は長い将来の肺癌やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)を予防するだけでなく、現在の健康にも大いに効果があることが判ります。「卒煙」するにはまずご自身が志を立てられることが大切ですが、最近ではニコチンパッチなどにより医者もお手伝いできるようになりましたからご相談ください。

医療法人一仁会 石野病院
顧問 岡田 慶夫  

懐かしいひとり暮らし

 三十年あまり前、二十一才の私はあこがれのひとり暮らしを始めました。当時女性のひとり暮らしがそんなに多くない時代だったので、ちょっぴり勇気のいる行動でした。

 私の住んでいたアパートは女性専用で私とあまり年齢のかわらない七人が暮らしていました。今の様にバストイレ付のマンションなんてものではなく、家賃一万円だったでしょうか、共同台所に共同トイレ、お風呂も共同でした。
 夕方になると台所の二台しかないコンロはあくのを待つ事もしばしばで、当然おかずの交換なんかも有りです。週三回のお風呂の日には風呂の前の廊下に名前の書いた洗面器が並びます。入った人から順に次の名の人に声をかけるのです。最後の人が同じ棟に住む管理人さんに終了した事を伝えに行きます。

 電話はかかって来たら管理人さんが呼び出してくれました。冬なんかは電話機が外にあったのでとっても寒かったのを覚えています。
 だれかが風邪で寝こめばだれかが食事を作ってあげる。そんな事はあたり前の事でした。土曜の夜は自然にだれかの部屋に集まってゲームやおしゃべりで夜更けまで過ごしました。「遠くの親類より近くの他人」という言葉がありますが、まさにそんな助け合いの生活でした。今の若い人には想像もつかないでしょうね。かえってわずらわしささえ感じるかもしれませんね。

 結婚によって住人の入れかわりもありましたが、私も四年間楽しく過ごす事ができました。自然に連絡も途絶えてしまいましたが、この頃懐かしく当時を思い出す事が多くなりました。最近久しぶりにそのアパートの前を通ると、壊されずにまだありました。リフォームされ外観もかわり○○荘から○○ハイツになっていました。
 今はバス・トイレ付になったのでしょうね、きっと。

看護助手 K・Y

理事長推薦ロック名盤 第1回

第1回 『フォックストロット』 ジェネシス

 今回から私が独断と偏見で選んだロックの名盤をいくつか紹介します。と言っても、最近のロックはほとんど知りません。私が学生時代に聞いていた70年代ロックが中心です。偏っています。ネタが尽きたらやめます。第1回と書きましたが、今回限りかもしれません。いい加減な連載ですので、適当に読んでください。

 ジェネシスは80年代に活躍したヴォーカルとドラム担当のフィル・コリンズ率いるポップなロック・バンドというイメージでご存知の方も多いと思いますが、もともとは、ピーター・ガブリエルがヴォーカルを担当していたプログレッシブ・ロック・バンドでした。フィル・コリンズを知っている人は多いかもしれませんが、ピーター・ガブリエルを知っている人は少ないと思います。でもなぜか今年のトリノ・オリンピックの開会式で「イマジン」を歌っていたので、ヨーロッパではいまだに根強い人気があるのかもしれませんね。
 プログレッシブ・ロックというのは直訳すると「進歩的ロック」という意味になりますが、クラシックやジャズを取り入れた複雑なコードやリズムを多用したロックで、今で言うオタク系の人たちに人気があり、我々は「プログレ」と略していました。70年代にはジェネシスも代表的なプログレ・バンドのひとつでした。
 『フォックストロット』は73年に発表されたジェネシスの「プログレ」時代の代表アルバムです。ピーター・ガブリエルの妖しげなハスキー・ヴォイスと、ドラムのフィル・コリンズとベースのマイク・ラザフォードが奏でる重量感のある複雑な変拍子と、ギターのスティーブ・ハケットとキーボードのトニー・バンクスが織り成す不思議な旋律が絡み合い、スケールの大きな構築美を形成しています。無人島に1枚だけCDを持って行ってよいと言われたら、私はこの作品を選びます。
 是非一度お聞きください。

医療法人一仁会 石野病院
理事長 岡田 純

2006年10月5日木曜日

あなたの血管年齢は?


1.動脈硬化はどれくらい悪い病気か

 近年、動脈硬化(心疾患と脳血管疾患)による死亡率は増加しており、がんに次いで死亡原因の第2位です。しかも、現在、要介護者や寝たきりの問題が注目されていますが、その主な原因も動脈硬化です。動脈が硬くなったり詰まったりする動脈硬化性疾患には、心筋梗塞、脳梗塞や脳内出血などの脳卒中、それに足の血管が狭くなったりする閉塞性動脈硬化症(ASO)などの心血管疾患があります。
 心筋梗塞は、心臓に血液を供給する冠状動脈が詰まる病気で、心臓の筋肉へ血液が流れなくなり、死亡することもあります。また、そのときは回復しても再発することもあり、大変危険な病気です。脳卒中になりますと、脳の神経細胞が死に、手足などの機能が障害を受けることにより、要介護や寝たきりになったり、また、死亡することもあります。ASOは、足の血管が狭くなったり詰まったりする病気で、足の先に十分な血液を送ることができず、足が冷たくなったり、歩くとしびれや痛みを感じたりします。重症になると、足を切断せざるを得ないこともあります。
 以上のように、動脈硬化は死亡の原因であるばかりでなく、健康で自立して生活することを妨げる病気でもあります。一方、「人は血管とともに老いる」ともいわれ、加齢とともに血管は硬くなりますが、動脈硬化は初期段階では症状がなく、血管が徐々に硬くなり、最終的に脳卒中や心血管疾患を発症すると考えられていますので、その予防と検査が重要になります。

 2.新しい動脈硬化の検査

 ここでご紹介する検査では、血管の硬さの程度と「血管年齢」がわかります。CAVI(キャビィ)検査と呼ばれるこの検査は、血圧測定等と同様簡単で、検査時間は約5分です。
 それでは、もし「血管年齢が高い」「動脈硬化が進んでいる」と判定されたらどうしたら良いでしょうか。動脈硬化を進行させるといわれている生活習慣の悪い点は直ちに修正しましょう。肥満、高脂血症、高血糖、高血圧、高尿酸血症、脂肪肝等がある人は、しっかり食事療法を行い、標準体重まで減量し、適度な運動を心がけてください。すでに薬等で治療中の方は、主治医とご相談のうえ続けてください。

 3.血管年齢を上げないために

 動脈硬化になりやすい要因には、内臓脂肪型肥満・糖尿病・高血圧・高脂血症・喫煙・ストレスなどがありますが、それでは動脈硬化を予防するにはどのようにすれば良いのでしょうか。動脈硬化の予防は治療と似ていますが、主に食事と運動を中心とした良い生活習慣が重要です。食事では、
 ①野菜で食物繊維を十分に摂取する
 ②低脂肪を心がける
 ③食塩を1日6g未満にする
 ④適切なカロリー摂取(表)

運動では、有酸素運動(全力の40~60%で、1回20~30分程度、回数は多く、疲れが残らないようにする運動)が効果的です。もちろん、禁煙は言うまでも無く、小さなことにくよくよせず、悩みを相談したり、笑うなどしてストレスをため込まないことも大切です。

 4.元気で健康な生活を

 これからも益々、平均寿命は伸びると思いますが、自立して健康に暮らせる期間、いわゆる「健康寿命」を伸ばすことが大切です。そこで、血管年齢(血管の硬さ)により動脈硬化がどの程度であるかを知り、健康的な生活習慣により動脈硬化を予防し、年をとっても若くて健康な生活を送りたいものです。この血管年齢検査について詳しく知りたい方は、お気軽に医師までご相談ください。

まっ白い『おにぎり』

 幼い頃の思い出はほとんど忘れてしまい、あまり記憶に残っていないものですが、ただ、今でも覚えていることがある。

 それは戦争末期、連日連夜の空襲で大阪は焼け野原となり、京都に住んでいた我が家も「次は京都の番だ」と思い、父だけが残って私達は母の郷里である湖北の高月町に疎開することとなった。
 汽車は「ブォー」と汽笛を鳴らし一路湖北をめざして走り出した。あたり一面がのどかな田園風景となった頃、前の席に座っていたおじさんが竹の皮に包んだ物を取り出し、おいしそうに食べだした。私は思わず身を乗り出し、そのまっしろの『おにぎり』をジーっと見つめた。食糧難の時代であった。幼い私も配給されるスイトンを得る為に鍋を持って並ばされたものであった。そんな時代に目の前に出されたまっしろの『おにぎり』を食い破るように見つめたのも、本能からくる当然の行為であったといえる。おじさんは、そんな私を見て「ボン食べるか」と言って残りのひとつを手に載せてくれた。「おおきに」と言って口にほおばり一心に食べた記憶は、いまだに忘れないでいる。

 今は欲しいものは何でも食べられる時代となった。宴会などでも随分と残ってしまい、マータイ博士の如く「モッタイナイ」とつい思ってしまう。私は食糧難の時代に育ったお陰で、何でも美味しく食べられる。
 子供の頃に、母より「米粒ひとつにもお百姓さんの汗の結晶が込められているのよ。だから感謝の気持ちで頂くように」と教えられた。

 家族が食卓を囲み「いただきます」と言って、一家団欒しながらの食生活が、一家和楽の家庭となり、それが健全な社会の構築に貢献すると思ってる。

診療放射線技師 O・M
2006年 秋号

心に響く音

 数年前の一月十七日、一乗寺グラウンドで太鼓の演奏が行われていました。「鎮魂と希望の太鼓」、阪神淡路大震災の被災者のために、そして世界中の平和を祈って打たれる太鼓の響き…耳から聞こえてくる太鼓の音と地面から伝わってくる振動は凄い迫力で、胸に響いてくるものがありました。毎年行われているこの演奏は、「風」という和太鼓サークルで、何度も見ているうちに、どうしても私も太鼓を叩いてみたくなり、昨年二月にこのサークルに入会しました。
 練習を始めて約一年半、手にマメを作り全身筋肉痛になりながら練習に励んでいますが、未だに思うようにいい音は出ません。それでも、今年の一月十七日には念願のグラウンドに立つことができ、努力が感動に変わった瞬間でした。他にも地域のお祭りやイベントににも出演し、夏には府立文芸会館のステージにも立つ事ができました。
 もともと体力もなく、リズム感もない私に「できる訳ない」と思っていましたが、先生(「祭衆」のメンバー。世界的に活躍されているプロの和太鼓奏者です)やベテランメンバーの指導のもと、とても楽しい時間を過ごしています。興味のある方、ぜひ一緒に太鼓を叩いてみませんか?

看護師 O・S
2006年 秋号

2006年6月30日金曜日

「鼻から挿入する胃カメラ」はじめました


 1.はじめに

 ご存知のように、日本人の死亡原因第一位は癌です。その中でも胃癌は肺癌に次いで死亡者数の多い癌です。胃癌が恐ろしい病気であることは言うまでもありません。しかし、医療の発達により、胃癌の早期発見・早期治療が可能となり、その死亡率は年々減少してきています。胃癌の早期発見にもっとも貢献している検査法が上部消化管内視鏡(胃カメラ)であり、近年その発達にはめざましいものがあります。画像がどんどん鮮明となり、非常に小さな胃癌も発見できるようになりました。場合によっては手術しなくても内視鏡下で胃癌を切除し、根治する事ができます。しかし、胃カメラの一番の難点は、直径1センチ程度ある管を口から飲み込む必要があり、個人差はありますが多少の苦痛を伴う検査法であるという点でした。最近この胃カメラの一番の弱点を補う「経鼻内視鏡(鼻から挿入する胃カメラ)」が開発されました。当院においても早速この新しい胃カメラを導入いたしましたので、ご紹介します。

 2.経鼻内視鏡の特徴

① 胃カメラが舌の根元(舌根)に触れることで、咽頭反射(嘔吐感)が起こります。 鼻からの挿入でこの問題が解消しました。(図1)

② 経鼻内視鏡は従来の半分、5.9㎜の細さです。その分違和感が少なく、スムーズな挿入が可能です。

③ 鼻への麻酔も微量で、身体への負担が軽減されます。

④ 患者さんは検査中にしゃべれるため、安全な検査につながります。また、検査の途中でモニターを見ながら医師に質問することもできます。今までの口から飲み込む胃カメラでは検査中に話すことができなかったため、精神的な苦痛も伴いましたが、その点も解消されたわけです。

 3.経鼻内視鏡の欠点
 

① 両側の鼻腔がともに狭い場合、また、鼻の病気や手術をなさったことのある方には、経鼻での検査ができないこともあります。その場合、口からの胃カメラに変更します。

② 数%の頻度で鼻出血が起こりますが、内視鏡を抜去して  分程度鼻を押さえていれば止血できます。

③ 口からの胃カメラに比べやや画像が荒く、また、送気・送水・吸引の力がやや弱いため、視野が悪くなったり、検査時間がやや長くなる傾向があります。

 4.胃癌で死なないために

 高血圧や糖尿病といった生活習慣病とは異なり、胃癌を予防することはなかなか困難です。そのため、胃癌で死なないようにするためには、早期発見・早期治療が重要であることは言うまでもありません。京都市が行っている胃透視による胃集団検診を受けていただくことも有意義なことです。しかし、胃カメラの画像精度の発達はめざましいものがあり、胃透視に比べはるかに多くの情報を得ることができます。もちろん胃透視にも胃カメラにはないよい点があり、可能であれば両方検査を受けていただくとより確実に胃癌を発見することができますが、時間的・経済的・身体的負担を考えると、それは非効率的です。胃癌の早期発見のためにどちらか一つを選ぶのであれば私は迷わず胃カメラをお勧めします。できれば1年に1回検査を受けていただければ、0%とは言いませんが、胃癌で死ぬ確率を極めて小さくすることができます。ただし、京都市では胃カメラによる胃癌検診は今のところ行われていません。腹痛や食欲不振・胸焼けといった消化器症状のある方は健康保険で胃カメラを受けていただけますが、全く症状のない方が検診代わりに胃カメラを受けていただくときには自費診療となりますので注意が必要です。

 5.経鼻内視鏡の勧め

 今まで、口からの胃カメラを1年に1回飲んでもらうのは身体的・精神的苦痛を伴い、なかなか大変であったと思います。しかし、経鼻内視鏡は検査に伴う苦痛が少なく、繰り返し受けていただくことが容易になりました。定期的な検査にはもってこいであると思います。現在消化器症状のある方はもちろん、症状はないが胃癌に対して不安をお持ちという方は、是非一度経鼻内視鏡を受けられることをお勧めします。

製品情報ページ(フジノン東芝ESシステム株式会社)
http://www.ft-es.co.jp/about_scope/nose.html

医療法人一仁会 石野病院
理事長 岡田 純