2010年8月26日木曜日

理事長推薦ジャズ名盤 第6回

『チック・コリア・エレクトリック・バンド』チック・コリア・エレクトリック・バンド

 誰しも、その後の人生に大きく影響した、二度と忘れることの出来ない感動的な経験をお持ちと思いますが、私にとっては、1986年「ライブ・アンダー・ザ・スカイ」でのチック・コリア・エレクトリック・バンドのパフォーマンスは、私が今まで観てきたライブの中で間違いなくベストであり、二度と忘れることの出来ない衝撃的な体験となりました。
 「ライブ・アンダー・ザ・スカイ」については、すでに第1回ジャズ名盤で説明しましたが、もう一度触れておきます。日本たばこ産業がメイン・スポンサーとなり、77年から92年にかけて行われた大規模な野外ジャズ・フェスティバルで、大阪では「万博公園お祭り広場」で毎年8月に開催されました。今となっては考えられないのですが、学生にも手が届くリーズナブルな料金で、マイルス・デイビスやチック・コリアやハービー・ハンコックといったスーパー・スターたちのライブを見ることが出来たのです。
 86年、チック・コリア・エレクトリック・バンドのデビュー作である『チック・コリア・エレクトリック・バンド』が発表されるやいなや、チック・コリアの大ファンであった私は、すぐにレコードを買い針を落としました。(まだ、CDプレーヤーを持っていなかったのです。)そのネーミングから、電子楽器を多用したロック色の強いフュージョンで、ロック名盤番外編でもご紹介したリターン・トゥー・フォーエヴァーの延長線上の音を予想したのですが、私にとっては期待以上の出来栄えでした。チックの演奏はもちろん超一流ですが、ドラムのデイヴ・ウェックル、ベースのジョン・パティトゥッチといった若きミュージシャンもスーパー・テクニックを披露し、そのスピード感はリターン・トゥー・フォーエヴァーを上回るものでした。そして、一番びっくりしたのは、シーケンサーを使用していたことです。ジャズは即興性が一番の特徴であり、曲のテンポ、リズム、長さなど、演奏するごとに変化するのが普通です。シーケンサーを使用し、あらかじめプログラムすることは、これらを固定してしまうことになります。「これはもはやジャズではない」と思ったジャズ・ファンも多かったことでしょう。しかし、私は、「演奏自体は躍動感に溢れていて、ジャズのスピリットは全く損なわれていない」と感じました。
 この作品が発表されて間もなく、「ライブ・アンダー・ザ・スカイ」でチック・コリア・エレクトリック・バンドが初来日します。シーケンサーを使用した曲がライブでどのように演奏されるのか期待と不安の入り混じった気持ちで観に行きました。そして、目の前で、俄かには信じがたいパフォーマンスが繰り広げられました。レコードと同様にシーケンサーを使用しながら、それ以上のスピード感、躍動感で、圧倒的な演奏を披露したのです。最後の曲が終了した時、会場全体から大きな拍手とともにどよめきのような歓声が上がり、私の全身に鳥肌が立ちました。
 今でも、この作品を聞くたびに、そのときの情景がまざまざと脳裏に蘇り、深い感動に包まれます