2010年8月26日木曜日

理事長推薦ジャズ名盤 第7回

第7回
 『リターン・トゥー・フォーエヴァー』 /チック・コリア

 前回に引き続き、チック・コリアの作品を紹介します。ロック番外編を含めると3回目の登場です。実は、私の一番好きなジャズ・プレイヤーはマイルス・デイビスでもチャーリー・パーカーでもなく、チック・コリアなのです。そのチック・コリアの最高傑作と言われているのが、今回紹介する72年の作品『リターン・トゥー・フォーエヴァー』です。水面すれすれに滑空するカモメのジャケット、ラテン・フレーバー漂うチックによるオリジナル曲の完成度、スタンリー・クラークによる超絶技巧ベース・プレイ、そしてもちろんチックの華麗なキーボード・プレイ、どれをとっても完璧です。この作品はジャズのアルバムとしては異例の大ヒットとなり、チック・コリアもその後この作品の延長線上にある何枚かのフュージョン作品を「 リターン・トゥー・フォーエヴァー」名義で発表することになります。ロック番外編で紹介した『浪漫の騎士』はその中の1枚ということになります。『リターン・トゥー・フォーエヴァー』はチック・コリア自身にとってもターニング・ポイントとなる重要な作品なのです。
 同時にこの作品はジャズ界全体にとっても大きな意味合いを持つ作品です。まず、ラテンのリズムやフレーズを巧みに取り入れたスピーディーでスリリングな曲調そのものが、その後全盛を迎えることになるフュージョンの雛形となっていきます。また、演奏スタイルもその後のジャズに大きな影響を与えました。チックはこの作品の中でアコースティック・ピアノを一切弾いていません。全てフェンダー社製の「ローズ」というエレクトリック・ピアノを使用しています。曲調にマッチしたその透明感のある爽やかな音色は、その後のフュージョン・サウンドに欠かせない要素になり、80年代にデジタル・シンセサイザーが登場するまで、全盛を極めます。余談ですが、チックに「ローズ」を弾くように勧めたのはマイルスだそうです。
 数多あるジャズの作品の中で1枚だけ選べと言われれば、私は迷わずこの作品を選びます。
 
医療法人一仁会
脳神経リハビリ北大路病院
理事長 岡田 純