2011年4月25日月曜日

第1回 『人形館の殺人』 綾行人

今回より、新しい連載『左京ミステリー散歩』を開始いたします。

 ご存知のように、左京区には下鴨神社や銀閣寺といった世界遺産をはじめ、観光名所が数多く存在し、多くのガイドブックで紹介されています。
ただ、私たち地元に住んでいる人間は、普段観光名所を訪れることはあまりなく、身近な場所を散策することの方が多いのではないでしょうか。

 一方、私が好きなミステリー小説でも、京都、特に左京区が舞台に選ばれる事が多いのですが、観光名所だけでなく、意外なほどごく身近な場所も登場します。
このシリーズは、そういった身近な場所が登場するミステリー小説をご紹介し、左京区のちょっと違った魅力を再発見していただこうという緩い企画です。
ミステリー小説の性質上、詳しい内容については出来るだけ触れません。
もちろん、解説や評論といったものではありません。気楽にお付き合いください。
小説に登場する実際の場所を撮った写真も掲載し、お勧めスポットとしてご紹介いたしますので、あわせてお楽しみください。

 第1回目は綾辻行人の『人形館の殺人』をご紹介します。
北白川にあるという「人形館」という建物で起こる殺人事件を描いた本格ミステリー小説です。
今回のお勧めスポットは疎水と御影通の交差点です。
ヒロインが犯人に襲われるクライマックスシーンの舞台です。
北大路病院のある一乗寺から疎水に沿って南に下がっていくと、やがて御影通を越え京大農学部グラウンドの横にさしかかります。
それまで見通しのよかった疎水道も、多くの木々が繁り、薄暗く、少し寂しい雰囲気となります。
ミステリーのクライマックスシーンにはうってつけの場所といえるでしょう。
でも、不思議と落ち着いた気持ちになり、癒されます。私は大好きな場所です。
作者の綾辻行人は京都大学教育学部出身です。
学生時代にこのあたりを散策してお気に入りの場所となり、その後自分の小説の舞台に選んだのかもしれませんね。

 綾辻行人は1987年に『十角館の殺人』でデビューしました。
当時、松本清張に代表される「社会派ミステリー」が隆盛を極めていましたが、「本格ミステリー」の復権を目指して発表されたこの作品はミステリー小説界に大きな衝撃を与えます。
以来、綾辻の後に続く若手の本格ミステリー作家が次々に登場し、「新本格ミステリー」というジャンルが確立されました。

 『十角館の殺人』から始まる『館シリーズ』は大人気シリーズとなり、現在まで8作品が発表されていますが、『人形館の殺人』は第4作目にあたります。
『人形館の殺人』はそれ自体も大変優れた作品ですが、出来れば『館シリーズ』を最初から発表順にお読みください。
その魅力を何倍にも味わうことが出来るでしょう。

(理事長 岡田 純)