2007年10月1日月曜日

認知症について


 最近、認知症という言葉がよく聞かれるようになりました。二十一世紀になって高齢化社会となり、65歳以上の人は5人に1人といわれています。そして認知症患者は200万人を超えたと言われています。認知症とは、記憶障害(物忘れ)が出てくる病気の総称のことです。

 認知症は60歳以上の4~6%、85歳以上では30%と高齢者に多い病気です。そのため、物忘れ症状が「年齢のせいでなにかと忘れやすくなった」と簡単に考えられて片付けられてしまうことがよくあります。特に病気の初期では、そのような対応をされ病気の進行した頃に言動がおかしいということでわかったということもあります。

 認知症の半分はアルツハイマー病であり、残りの30%が脳梗塞に関連した脳血管性認知症、残りがその他の認知症ということになります。アルツハイマー病の初期症状としては、記憶障害(何回も同じことを尋ねる)、見当識障害(日付や曜日がわからない)、実行力低下(仕事上の小さな失敗が増える)、計算力低下(物を買うときに高額紙幣をいつも使う、家計管理ができない)といった症状があり、進行すると記憶障害のほか行動面の異常が出てきます。

 アルツハイマー病は進行性の病気であり、現在根治できる治療法はないのですが、進行を遅らせる薬として、塩酸ドネペジルという薬があります。アルツハイマー病では脳内のアセチルコリンという物質が減少しており、それを増やそうとする働きをしています。これを発症の初期から使うことで進行を遅らせることが出来ると言われています。そのため、早期発見、つまり物忘れが病気の為かそうでないかといったことを区別することが重要になってきます。

 物忘れには、年齢からくる物忘れ(重要でないことや昔のことを思い出せない)と病的な物忘れ(体験したこと自体を忘れる)があります。認知症になる前のはやい時点で治療が開始できないかといった問題が検討され、認知症になる前の正常でもないが認知症でもないという状態の「軽度認知障害(MC I : mild cognitive impairment)」という概念が提唱されています。これは定義から言うと「本人や家族から記憶障害などの認知機能の低下の訴えがあるが基本的な日常生活機能は自立している状態」となり、物忘れ症状があるが何とか自分で生活できている状態のことを指しています。ただし初期にはその区別がわかりにくいことがあります。

 記憶障害の有無をみる神経心理検査で記憶障害の状態を判断し、さらに脳のMRI検査をすることで脳梗塞によるものやその他の認知症をある程度鑑別をすることが出来ます。また、場合によっては治療が可能な認知症(正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫など)を発見出来ることがあります。さらに詳しく検査をするには脳血流をみることが出来るSPECT検査や脳の中の神経細胞や代謝物質を評価できるMRスペクトロスコピー、立体的に脳をみることで標準の脳と比べて脳のどこでどの程度、萎縮しているかがわかるVBMといった検査があり、これらをすることでアルツハイマー病やその他の認知症を早期に発見することがある程度可能となっています。

 認知症の早期発見、早期治療という観点からも物忘れを自覚したり、家族から指摘された場合は、病院で一度検査を受けてみることをおすすめいたします。


神経内科医 白樫 義知