2007年4月3日火曜日

膝に溜まった水を抜くと癖になる?


 整形外科で外来をしていると患者さんによくこう聞かれます。

「水を抜いたら癖になるって聞くんですが。」

 結論から言いますとこれは一種の迷信で抜くことによって癖になるなんて事はありません。
 関節に溜まる水は関節水腫といって色々なことが原因で起こりますが、一般的には関節に起こった炎症が引き金になって溜まる量と吸収される量のバランスが崩れることによって生じます。正常な膝関節にも大体、2cc以下の水は存在するのですが、炎症によって関節内の滑膜という組織の血管の透過性が亢進すると供給される水が大幅に増えるため吸収が間に合わなくなって溜まってしまうのです。繰り返し何度も水を抜くような方は関節に起こっている炎症が中々治まらないという事であって、決して抜いたことで癖になっている訳ではないのです。
 もちろん、注射自体はお世辞にも痛くありませんとは言いにくいのですが癖になるから、と痛みを我慢しておられるような場合は少し勇気を出してもらえれば大抵の方がそれ以前よりは楽になって頂けるのではないかと思います。

 先程から水、水と書いていますが正確には滑液といいます。
関節内に存在する潤滑剤のようなもので水というよりは水飴に近い感じでしょうか。
基本的には膝だけではなくあらゆる関節内に存在していて、関節の摩擦を軽減しています。
年齢とともに潤滑剤である滑液の量が減り関節の摩擦が多くなり軟骨に障害が出てくると変形性関節症という事になります。
 それならば、水が溜まる=滑液が溜まる=潤滑剤が増える。なのにどうして痛いの?と思われるかもしれませんが、この場合溜まった水というのは本来の滑液を薄めてしまったような非常に粘りの少ないものなので潤滑剤としてほとんど働いていないのです。
そのために一般的には膝の水を抜いた後に滑液の主成分であるヒアルロン酸という薬を入れることが多いです。足りない分を補充するわけです。
 万人に効果がある訳ではありませんが膝が痛くて腫れている、といった症状が続いておられるような時には関節の注射を考えて見られても良いのではないでしょうか。

 最後になりましたが、昨年の十二月から火曜日の午前中に整形外科の外来をさせて頂いています橘と申します。理事長の岡田 純先生とは高校時代の同級生であり、その縁でこちらの病院に来させて頂きました。普段は滋賀県の病院でスポーツ外傷を中心に診療をしていますが数年前までは一般整形で外来、手術をしておりました。整形外科的な事で何かありましたら受診頂ければ幸いです。

整形外科医 橘 真一