2011年10月6日木曜日

地域連携室だより

 八月の暑さの中、宮城県石巻市など震災後の地へ出向く機会を与えられた。津波の後の瓦礫などは、ほぼ撤去されていたものの、壊れた家々が所々に残っていて人の気配は少ない。街中一帯が、一種空虚でうつろな時間が流れて奇妙な感覚にとらわれたが、倒壊家屋の解体・片付け・整理などのお手伝いをした。
 
 そんな中、ある家の二階にピアノが残っていた。ご婦人がそのピアノを、とある町の学校に寄贈されるとのことで二階から降ろすお手伝いをした。移動が終わった後、そのご婦人が最後にそのピアノを弾いてほしいと言われた。作業に加わっていた若者と牧師が賛美歌を演奏し皆で賛美した。演奏後ご婦人は淡々と「ありがとうございました」と皆に挨拶をされた。ピアノは車に載せられ去って行く。おそらく津波で亡くなられた娘さんの愛用していた思い出のピアノ。ご婦人はどんな思いで最後のピアノの音色を聴き、何を思っていらしたのだろうか。
 
 このご婦人と私たちは、震災がなければ出会わなかったであろうし、このピアノの最後の音色を共に聴くなどということもなかったに違いない。復興の声が高らかに響く震災後の地では、こんな光景がいまだに日常の中に無数に存在している。この先このご婦人にはもう会うことも無いかもしれない。八月の震災の地は暑く、心に言い知れぬ傷を受け、悲しみを抱えたままでも前を向いて生きていこうとする人の心の営みが、むしょうに胸を熱くしてやまない。