2010年1月7日木曜日

理事長推薦ジャズ名盤 第5回

『アンオーソドックス・ビヘイビアー 』 ブランドX

 第4回までに述べたように、70年代から本格的にジャズからロックへのアプローチが始まり、フュージョンというジャンルが確立していったわけですが、当然同時進行的にロックからジャズへのアプローチも進んでいきました。今回はロック畑、しかもイギリスのミュージシャンによるフュージョン作品をご紹介します。76年に発表されたブランドXのデビューアルバム『アンオーソドックス・ビヘイビアー 』です。メンバーはジョン・グッドサル (ギター)、パーシー・ジョーンズ(ベース)、ロビン・ラムリー(キーボード)、そして、第1回ロック名盤で紹介した、ジェネシスのリーダーであり、ドラマー兼ヴォーカリストのフィル・コリンズがドラムを担当しています。フィル・コリンズがあまりにも有名なので、フィルのソロ・プロジェクトと誤解されがちですが、ブランドXのデビュー前に、最後に呼ばれ参加したのがフィルのようです。
 とにかく、各メンバーが超絶技巧をこれでもかと競い合う、聞いた後でお腹いっぱい、カロリーいっぱいの作品です。特に、ポップバンドとしてのジェネシスや、ソロ歌手としてのフィル・コリンズしか知らない人にとっては、唖然とするような音数のドラミングを聴くことができ、驚愕していただけること間違いありません。
 しかし、ブランドXのサウンドを一番特徴付けているのは、紛れもなく、 パーシー・ジョーンズのベースです。彼のフレットレス・ベースによるハーモニクス奏法(弦を指板まで押さえつけず軽く触れる程度で弾き、倍音だけ鳴らす奏法 )は得体のしれないフレーズを創り出し、二度と忘れることのできない強烈な印象を植え付けてくれます。同様にフレットレス・ベースでハーモニクス奏法を得意とした一番有名なベーシストはジャコ・パストリアスですが、パーシー・ジョーンズはより実験的でより過激な音を聴かせてくれます。
 ブランドXはバンドというよりも、流動メンバーによるプロジェクトという傾向が強く、この後も、さまざまなメンバーにより、実験的な作品が作られていくことになりますが、すでに、76年という時代に、デビューアルバムにおいて、発展途上のフュージョンではなく完成形を創り出していることに大きな驚きと感動を覚えます。


医療法人一仁会
脳神経リハビリ北大路病院
理事長 岡田 純